強面の親父さんが作り出す、優しい味

料理は、作り手のモチベーションで、味が変わると感じた事はありませんか。全店舗同じレシピを使ったマクドナルドのハンバーガーでさえ、店員さんが笑顔で生き生きと働く店と、どんよりしたやる気のない感じの店では、なんだか味が違うような気がする。と、私は普段思っています。
広島方面に行くと必ず食べに行くラーメン屋があります。いつも行列の老舗のお店で、店内は10席ほどのカウンター。メニューはいたってシンプルで、中華そばに中華うどん、あとはご飯類と飲み物ぐらいで、店に入ると、「大?並?」と聞かれます。テレビが付いていて、眉間にしわを寄せた親父さんがたまにテレビを眺めながら麺を茹で、力強くリズミカルに麺上げをします。テレビの音と麺上げの音と食器を洗う音とお客さんのラーメンをすする音。妙な緊張感が漂い、食べる人たちは終始無言で、食べ終わるとそそくさと出て行きます。親父さんはたまに手が開くと、裏口を半歩外に出て、やはり眉間にしわを寄せたまま、煙草を吸い、吸い終わると咥えていた煙草を地面に叩き落として火を消し、店内に戻り麺上げに取り掛かります。何度行っても、なんとなく緊張する店なのです。
ある時、私達がラーメンを食べていると、後から若いカップルが入ってきました。彼女がレンゲを欲しそうにしていると、彼氏は意を決して沈黙を破ったのです。「すみませーん、レン・・」間髪入れず「うちはやってません。」と店主。店内は一瞬で、もとのテレビと麺上げと食器とラーメンをすする音だけに戻りました。
初めて行った時、やはり行列でしたがお店の門構えが私たち好みだったので、並んで入りました。だけど、雰囲気が、妙に張り詰めているものですから、これではラーメンが美味しいわけがない、並んだのは失敗だったかと思いながらラーメンを待ちました。しかし、ラーメンが来てスープを一口飲むと、その予想は外れでした。魚介出汁の醤油ベースのスープはコクがあり、背脂が乗っていて旨味がもの凄いのです。麺は、九州の感覚からすると少し太めで、食べ応えがあり、濃厚なスープとこれでもかと言うぐらいに絡んでいます。未だかつて、醤油ラーメンでこんなに美味しいラーメンを食べことがない。そう思い、店内の雰囲気とのギャップに衝撃を受けました。
その味の感動をもう一度確認しようと何度か通ううちに、いつの間にやらファンになっていました。広島自体が遠い上に、市内からも更に遠いのですが、たかが一杯のラーメンのためにわざわざ行ってしまうのです。その辺のラーメン屋とはなんだか格が違う。九州はラーメン屋が多いし、私たちはラーメンが好きだから色々行ったけど、このクラスのラーメン屋はごく僅か、ほんの数件です。おそらく、昔気質の人間と現代の人間は、気合の入れ方が違うのかもしれません。愛情のかけ方も、きっと違うのでしょう。強面の親父さんが作り出すこの優しい味わいを、もっとずっといつでも食べたいと思うのですが、こういうタイプの店は、今の日本ではもはや絶滅危惧種。この情報社会では、叩かれる対象でしかありません。でも、私たちにとっては、とても貴重なお店です。
つたふじ
広島県尾道市土堂2-10-17
11:00~17:00 / 火曜定休
0848-22-5578
食べログ
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