タバコ

今から10年ほど前のある日、僕はテレビに釘付けになっていた。番組名は「ためしてガッテン」。生活情報番組だ。
僕は普段、テレビを見ない。しかしその日はなんとなくテレビを点けた。その日の番組のテーマは「タバコ」。僕は当時、一日に一箱ほどタバコを吸っていたので、なんとなくその放送をボーっと見ていた。番組は、あらゆるタバコの害を並べていく。肺に悪い、胃に悪い、など、健康を損ねますよという常套句だ。つまらないので、チャンネルを変えようとしたその時、番組のアナウンサーがいきなり表情を変え、「と、今まではこのように害があると言われていたのですが、実はその奥にはもっと恐ろしい事実が潜んでいたのです」と言った。なんだと?僕はまんまと食いついて、リモコンをテーブルに置き、続きを見た。
その恐ろしい事実とは、こういう事らしい。例えば、家族で車に乗って旅行に行く。お父さんは喫煙者。最初のサービスエリアで休憩。当然タバコを吸う。次に目的地に到着した、タバコを吸う。食事をした、タバコを吸う。お風呂から上がった、タバコを吸う。さあ一日頑張った、タバコを吸う。こんな風にタバコというのは、何かをした後のご褒美のように思われているが実は、人間の脳の中では、タバコ自体が目的になっているので、「タバコを吸うために」何かをしているらしい。極端にいうと、一生に一度の家族との旅行の思い出も、タバコを吸うためにお父さんは頑張っているので、思い出よりもタバコだ。家族は一体どんな気持ちだろうか?タバコというエサを求めて、無意識でアクセルを踏んで運転を頑張っているお父さん。なんとも滑稽な話だ。
僕はこの事実を知った時、青ざめた。僕も今までいろんな人と旅行に行ったり、遊んだりした。当然タバコも吸っていた。その思い出の全てがタバコの為だった。こんなに恐ろしい事はない。「タバコが記憶を奪っていく」そんな気がした。僕はその日からタバコを一本も吸っていない。
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